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2010年9月号 第 121回 「舌戦」

馳 浩 衆議院議員

選挙は的確一語。
 これに尽きる。
 百万言の説明よりもワンフレーズ。
 言い訳よりも、説得力。
 説明よりも、インパクト。
 今回の参議院選挙も、そのための対立軸作りに与野党が知恵をしぼった。
 どんな言葉を使えば、有権者に理解してもらえるか!
 理解した上で一票投じていただけるか、だ。
 国政選挙戦略の常道とは、与党が守り、野党が攻勢をかける、という図式。
 今回は、首相が交代したばかりの民主党が守りを固め、野党転落以降離党者が続出し、なかなか活路を見出せていない自由民主党が攻めあぐねるという展開だった。

 争点はどうなるか?
 どうやって攻めるか?という論点さがしの中、民主党は単独過半数を目指し、野党はそれを阻止できるか?!という、数合わせの議論ばかりが先行し、政策論争は盛り上がらなかった。
 そこに降って湧いたように火をつけたのが菅総理の「消費税増税」論争だった。
 渡りに船。
 自民党とすれば、飛んで火に入る夏の虫。
 敵失を利用しない手はない。
 すぐさま、菅総理がカッと頭に血が上るようなフレーズをぶつけた。

「バラマキ財政すっからかん」
「経済政策とんちんかん」
「発言ぶれてもあっけらかん」

 売れない芸人の一発芸みたいなものだが、そうは言ってもリピート効果は高い。
 野党になったのだから、与党を攻撃するのも作戦の一つ。
 どこが間違っていて、どうして民主党じゃダメなのかを伝えるには、こういう語呂合わせで耳に残るフレーズは欠かせない。
「かん、かん、かん」
 と重ねたところで、「癇に障るゼ!」とオーバーゼスチャーで両手を広げ、笑いを取ったら次はメリハリ利かせて真剣な演説。

「限られた税収でしょ。やっぱり経済のパイを広げなきゃ配るべき財源も増えないヨ!」
「仕事がなきゃ、家族を養えないじゃん!」
「手当てより、仕事だよネ!」
「まずは、リーマンショック前に景気回復!!」
「そして経済成長戦略!!」
「法人税下げましょ!国際競争力上げましょ!!」
「研究開発も、設備投資も軽減税率!!」
「何と云っても財政健全化だよネ!!」
 などなど、攻めに攻めまくる。

 選挙のときに消費税増税論争だなんて、よっぽどの覚悟と党内論議と内閣の方針が定まってなきゃいけないのに、菅さんにはその三つの要素の全てが欠けていた。戦略ミス。
 だから、同じ土俵に乗って来た、それも突り張りの打ち合いに。そして、総理らしくないこんな発言まで飛び出した。
「ここまで赤字を増やしたのは自民党じゃないか。古い政治に戻すな!」
 って、その通り。だから昨年の総選挙で負けたのです。そして反省し、昨年一〇月から、なんと八カ月間もかけて勉強会を開催し、経済成長戦略を縛り上げたのです。そのシナリオとして、
( 一 )景気回復
(二)経済成長
(三)財政健全化
 のステップを作り、税制抜本改革の一部分として「当面一〇%の消費税が、社会保障の財源として必要」という結論に到った。

 ところが菅さんは、
「自民党の一〇%を参考として協議したい!」
 と発言した。
「それじゃ、プロセス抜きのカンニング。」
 と、野党からの罵を浴びてさらに窮地に陥ってしまった。
 さらにさらに、言わなきゃ良いのに、
「低所得者層には税金を還付する!」
 と、二百万〜四百万まで、まさしくバナナの叩き売り状態。
 ちょっと菅さん、四百万円の年収ある世帯まで還付しちゃったら、消費税を上げる意味がなくなるじゃないの、とマスコミに指摘されたら、しどろもどろ。

 ……
 どうもこの舌戦、民主党vs自民党という二大政党の闘いではなく、菅さんvsマスコミという図式になってしまった。
 これじゃ菅さんの分が悪い。いくら枝野幹事長や仙谷官房長官がフォローしても後の祭り。民主党の、いや、菅さんの一人負け。

 選挙結果も、結局はそうなった。
 自民党が勝ったのではなく、民主党が自滅。
 参議院で過半数を失った民主党政権の傷は深い。
 舌戦。攻める野党の代表としては滅法強かった菅さんも、守りには弱かったわけだ。
 少しは反省して、国会運営も政策も見直さなきゃ、菅さん。それが「民意」でしょ?!
(了)