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藤 誠志 エッセイ 〜社会時評エッセイ〜 2006年11月号
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藤 誠志
 高山病は侮れない
 9月中旬に、かねてから一度は訪れてみたいと考えていたチベットの旅に、日本からの友人2人と上海に住む中国人の友人を伴って出かけた。出発前に多くの方から、チベットへ行くなら、高山病に注意しろと言われていた。チベットの省都ラサの標高は約3,700メートルと、富士山の頂上並み。酸素の量も9月の上旬は1年で一番多い季節だが、平地の66%しかない。上海に住む台湾の友人からは、高山病予防の漢方薬を服用するようにと勧められていたが、私は漢方薬などあまり効果がないだろうし、高山病といっても、大したことはないだろうと高を括っていて、せっかくの忠告を無視していた。しかし上海に到着した時に、上海で最も豪華な中華料理店「家菜」で22品の宮廷料理をごちそうになり、その席でも強く勧められたので、ラサに入る1日半前から頂いた高山病予防薬(紅景天)を毎食後に2錠ずつ服用した。  ラサ空港に到着した時、少し息苦しいがあまりの雄大な景色と素晴らしく澄み切った空気に、高山病への不安など吹き飛び、しばらくすれば体が順応してくるから初日は無理せず高所に徐々に体を慣らしておこうと、ホテルでのんびりしていたのだが、しだいに体調に異変が生じてきた。少しずつ熱っぽくなってきて気分も悪くなって心臓もバクバクしてきた。到着したばかりだから体が慣れず、もうしばらくすれば良くなるだろうと思っていたが、ガイドに聞くと、それは大間違いだという。だんだん体内の酸素が抜けてきて、到着して1日後が最も苦しいというのだ。薬も4日前から服用しておかないと効果がない。しかし、3日もすれば体が順応してくるから大丈夫というが、ラサへの滞在は2泊3日なので、慣れる前に帰ることになる。とにかく体を休めようと、早めに就寝したのだが、同行している妻の様子もだんだん苦しそうになってきた。しだいに頭痛が激しくなり、肌もかゆくなり、のども乾く。水を飲むと良いと聞いたので、ペットボトルでがぶがぶ飲んでいたのだが、後で聞くと水は少しずつに分けてたくさん飲むのが正解だった。予防薬といい、水といい、飲み方を誤ったことで、この後どんどん症状は悪化することになる。  ほとんど何も食べず、一睡も出来ず、頭から肩に腰にと痛みが下がっていって、ラサ2日目の朝を迎えた。まる1日使えるこの日を、私はラサ最大の見ものであるポタラ宮の観光に充てることにしていた。とても外出などできないという妻を「前で写真だけ撮れれば車の中で寝ていていいから」と無理に連れ出し、とにかくホテルを出発した。世界遺産にもなっているポタラ宮は神の住まう聖家であり、チベットの宗教的・政治的指導者であるダライ・ラマの居城だった、316万平方メートルにも及ぶ広大な建築物だ。見学には事前予約が必要で1日1,000人限定だそうだ。とりあえず入口近くに到着したが、風邪をひいて熱が出ているうえに二日酔いと睡眠不足が同時に襲ってきている感じだ。聞くと、ポタラ宮の見学をするには、これから千段以上も続く階段を上らなければならないという。滅多なことでは物事を断念しない私だが、逡巡しながらも、途中から見学をあきらめ、車に戻ってきてホテルへと帰った。
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 着々と進行しているチベットの漢民族化
 ホテルでは酸素パックを1つ100元(1,500円)で販売している。80元(1,200円)がパックの保証金で、20元(300円)が酸素の値段だ。吸引している間は、少しは頭痛が和らぐ。しかしフルに吸引をしていると、1時間足らずで酸素はなくなり、また20元を払ってチャージしなければならない。1晩中頭も肩も痛く、熱もあり気分が悪い。何度も酸素を補給しながら過ごすことになってしまった。3日目となったが、食欲もなく、朝食などとても喉を通らない。この日はラサのもう一つの必見スポットである大昭寺の見学をする予定だったが、妻は酸素パックを抱えて、ホテルで待っているという。私はせっかくだからと無理をして、車に乗って出かけた。チベット仏教の聖地である大昭寺は、長さ千メートルに及ぶ壁画があるなどさすがにスケールが大きく、多くの巡礼や観光客で賑わっていた。ここには階段がなかったので、なんとか一通り見学することができた。  何年か前に私はモンゴルを訪れたことがある。ラサの街の様子は、なぜかモンゴルと非常に良く似ていた。チベットがモンゴルに影響を与えたのかと思ったらその逆で、かつてモンゴルに支配されていた時に、モンゴルの文化がチベットに流入、根付いたという。ダライ・ラマという称号も、最初はモンゴル人支配者からチベットの最高宗教指導者に送られたものだったのだ。チベットの風習として最も知られているものに、鳥葬がある。これは死者の体を切り刻み、骨まで砕いて山の頂にある鳥葬台に置き、鳥に食べてもらうことによって、体を天国に届けてもらうというものだ。ガイドに聞くとこの鳥葬は今も行われているが、埋葬法は階層によって異なり「最も偉い僧は塔を建ててミイラとして葬る塔葬、その次の人は火葬して塔に納め、多くの人は今も鳥葬で、伝染病や毒物で死亡した人などは土葬、あまりお金のない人や小さな子供などは水葬として川に流す」5つの埋葬法があるという。チベット独特の文化が、まだまだこの土地に残っているのだ。  しかしラサの街を眺めていて感じたのは、漢民族の多さだ。背筋をまっすぐに伸ばして道を闊歩する軍服の兵士、背広姿の人々、警察官や役人など、街行く人のほとんどが漢民族。黒い顔をしたチベット人は、隅っこでお店の売子をしているか巡礼に来る人くらいしか見かけない。自分は満州族というガイドに、チベットの漢民族の比率を聞くと、5〜10%だという。しかし、どうみても半分近くは漢民族ではと思えた。漢民族による同化政策を露骨にしないため、低めに比率を言うようにと政府からガイドに指導をしているのだろうか。
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 物価や人件費が全く異なる過酷な地域間格差の存在
 大変苦しかったラサでの3日間を終え、四川省の省都である成都へと飛んだ。私が25年前にこの街を訪れた時には、ビルらしいビルもなく、道は人民服を着た徒歩や自転車の人々に覆い尽くされていた。今は近代的なビルが立ち並び、道は車であふれている。人口1,000万人を越える大都市だ。平地に戻ると今度は低山病になると脅かされていたが、酸素量と気圧が正常になってきた飛行機内から、私は少しずつ元気を取り戻し、成都に到着した時には空腹を覚えるようになっていた。かつて訪れた市内名所の諸葛亮が祀られた武候祠も綺麗に整備されていて、観光客も多かった。しかし観光もそこそこに早速この街で最高の台湾人の料理長がつくる、5つ星ホテルにある日本料理店へと急いだ。現地ガイドとあわせて六人で食べきれないほどの料理をラサの反動で注文したが、飲み物料金も合わせて800元(12,000円)ほど。店の女性は全て綺麗で若く、着物姿。月給を尋ねると、600元(約9,000円)だという。その夜は市内高級マッサージ店を訪ねた。1時間45元(670円)で皆で上手なマッサージを受けた。これらはいずれも市内の最高級価格と思われる。豊かな穀倉地帯にある成都の物価はおおよそ日本の10分の1、人件費は日本の20分の1以下だ。これでもラサに比べれば倍。しかし上海に行けば、物価も人件費も成都の2倍くらいになるだろう。中国という国の地域間格差は、想像を遥かに越えて激しいと感じた。  上海で、今回一緒に旅をした上海に住む中国人の友人の家を訪ねた。彼はマンションでの投資事業に成功、中国で新富人と呼ばれているセンスの良い43歳の事業家だ。上海外語大学を卒業していて、親日家で日本語も非常に上手い。150平方メートルはある広々としたマンションで若い農民戸籍のメイドを雇い、10歳ほど年下の美人で北京外語大卒の聡明な奥さんと二人でゆったりと暮らしている。この二人は10年間の同棲生活を経て、1年前に結婚したばかりだそうだ。なぜそんなに長く同棲していたのかと聞くと、もともと彼女の方が年収も資産も多く、彼がそれに追いつくまで結婚を待つ約束があったからだという。がんばって商売で成功、晴れて結婚した二人だが、寝室は別で、奥さんの部屋は書斎付きで大きく、彼はベッドの横に書斎机のある住まいで、子どもは作らず、お互いに干渉はしないというライフスタイル。そして炊事や洗濯など家事全般は、彼の役目となっている。中国の女性はなぜそんなに強いのかという質問に、彼は「仕組みがそうなっている」と理由を教えてくれた。
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 「中国女性が強い」のは身分制度が存在するため
 士農工商や奴隷制度は昔の話で、世界各国で身分制度が廃止されてきたのに逆行して、中国では共産主義の精神にも反する身分制度(農民戸籍・都市戸籍と国民の身分を二つに分ける制度)を20年前につくって、今も維持している。_小平は「豊かになれる人から先に豊かに」と共産主義制度に市場経済を導入。国民の8割を占める農民戸籍者と都市に住める都市戸籍者とに分け、この二つの階層に大きな所得格差がつくようにした。年間の現金収入が10,000円にもならない、大変な貧困に苦しむ農民戸籍者の農家が存在する一方、都市戸籍者の平均給与所得は年間で約27万円にまで上昇してきている。農民戸籍の人々の現金収入はすごく少なく、都市に出稼ぎに出て稼ぐしかなく、この低賃金労働で、低価格商品を造り輸出し、世界の工場としての競争力を維持することで太子党(共産党の幹部の二世)など一部の特権階級が莫大な富を稼ぎ出している。この稼いだお金は欧米に投資され、欧米のファンドに組み込まれて再び中国の事業にと再投資され、また儲けて欧米へ。農民戸籍の貧しい人々を豊かにすることなく、中国の富裕層と欧米の間を、資金は循環しているのである。  そんな格差社会であれば、誰もが都市に居住でき子供を都市の学校に就学させることのできる都市戸籍を持ちたいと思うのは当然である。しかし農民戸籍者が都市戸籍を得るには、地域の支援で就学金を工面でき、猛勉強して大学を卒業するしか道がない。もう一つ、自分は無理でも子どもを都市戸籍者にする手段はある。それは都市戸籍の女性と結婚することだ。中国の戸籍制度では、子どもの戸籍は父親ではなく、母親の戸籍で決まる。全ての戸籍の男が全体の2割しかいない都市戸籍の女と結婚したがるのだ。「中国の女性が強いのではなく、都市戸籍の女性が少なく皆が求めるから強くなるのである」と私の友人は言っていた。  中国では絶えず戸籍の記載された身分証明書の所持を義務付けされ、飛行機に乗るのにも必要と、全ての行動が捕捉されている。日本人が中国で会う中国人も、日本に来る中国人もほとんどが都市戸籍の中国人で、日本のメディアは多くの中国人は若くて優秀であると賞賛しているが、彼らは大学を卒業して都市戸籍を得た優秀な中国人で中国のごく一部の勝ち組だ。多くの農民戸籍の中国人にとっては、旅行などとても出来ない。  中国ではこのところ毎年80,000件以上の暴動が発生している。その大きな原因は強制的な土地収用と工場汚染に対する抗議、そして医療と教育の問題だ。お金がなければ病院に行っても治療を断られる。収入が極端に少ない農民戸籍者は、治療を受けることもできないし、子供を大学に行かせることもとても出来ない。矛盾だらけの中国社会だが、いよいよその矛盾が飽和点に近づいてきている。  旅の終わりにガイドが「またチベットに来ていただけますか」と聞いてきた。私は西安からいきなり飛行機で3,700メートルの高地にあるラサへと降り立ち、高山病に苦しんだ。今年の7月、青蔵鉄道が開通し、北京から列車でラサに行くことができるようになったこともあり、今度は鉄道でゆっくり高地に体を慣らしながら行くのもいいなと考えていたら、妻は「日帰りが良い」と言う。朝着いて体に酸素が残っているうちに観光、夕方の飛行機で戻れば、苦しまずに済むというのだ。高山病には悩まされたが、中国社会の「今」をしっかり理解することができた、有意義な旅だったと思う。
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 真の独立国家を目指す安倍政権に期待したい
 チベットから帰ったら私の期待通りの安倍内閣が誕生した。安倍内閣の最大の使命は占領下で作られた憲法ではなく本当の意味での独立国となるべく国民の総意に基づく独自憲法を制定することにある。憲法改正を前面に掲げ真の独立国家を目指す安倍政権が第一に取り組む事はメディアの健全化を図ることである。そのためには1964年に協定した「中国の意に反する報道は行わない」ことを条件に結んだ日中記者交換協定を即時撤廃する法律を制定すべきである。  第二は豊かさの実感できる国づくりを目指すことである。そのためには健全家族の育成を図る税の誘導(個人の住まいの償却を所得と損益通算することを認めることと、二世代で住まう住居の固定資産税は2分の1に、三世代で住まう住居の固定資産税は3分の1にする等)で、大型住まいの実現で大家族で住まい、親・子・孫と知恵の伝承ができる徳育の場を作ることである。住まい面積倍増戦略を立てて二世代、三世代住める大型住居の奨励で内需の拡大を図ると共に、観光立国を目指し海外からの観光客増大を図る施策を取ることと、国内旅行、リゾートなどにおけるエンジョイ経費の一部を年末調整で還付を図り奨励すべきだ。  第三は自虐的歴史教育を廃止し、民族の歴史に誇りと自信の持てる教育をすると共に記憶力のみを評価する偏差値教育を止めて、ディベートにより何が正しいかを見つけ出していく教育をする。そして多様な価値観に基づく地域特性の高い特色ある地方大学を育てることである。以上のことの実現を目指す安倍内閣に期待をしたい。
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