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藤 誠志 エッセイ 〜社会時評エッセイ〜 2005年06月号
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藤 誠志
 中国政府は民衆のデモに自らの主張を代弁させている
 四月十三日の読売新聞の朝刊に、中国で頻発した反日デモに関する温家宝中国首相の発言に関する記事が掲載されている。「訪印中の温家宝・中国首相は12日、ニューデリーで地元メディア幹部と会見し、中国で起きている反日デモを受けて、『アジアの人々の強い反発で、日本政府は深く反省するはずだ』と述べた」。「首相は日中関係について、『最大の問題は、日本が歴史を直視する必要があるということ』と指摘した。その上で、『歴史を尊重して、その責任を取り、アジア及び世界の人々の信頼を得ている国だけが、国際社会でより大きな責任を果たすことができる』として、日本の国連安全保障理事会の常任理事国入りに、否定的な見解を述べた」という。また同じ日、産経新聞朝刊の国際教養大学長・中嶋嶺雄氏のコラムには次のように書かれている。「今回の事件は、まさに官民一体の反日デモ以外のなにものでもない。そもそも、中国ではこのような大規模な街頭デモは許されていない。今回の事態は、政府の思惑とこれまで積み重ねられてきた反日教育の成果がみごとに一致した結果というほかない」。「中国政府の真意は、日本に対する一種のバッシングだ。日中友好の看板を掲げ、経済関係も好調なだけに、中国政府は公式に日本の国連安保理常任理事国入りに反対することはできない。それを若者たちが代わってやってくれたのが、今回の反日デモだ」この見方に私も同感する。反日デモをテレビで見ていると、人々の顔には笑顔が浮かんでおり、警備を行っている武装警察もデモの行為を傍観しているのみである。参加した人々が日本大使館に投げ込んでいたペットボトルや石片は、事前に誰かによって準備されていたもので、これらを見ても、デモは時間も金もかけて準備されたものであることがわかる。
  日本では国連を公明正大な国際機関という見方をする人が多いが、中国では「国連を『聯合国』といい、第二次世界大戦の『戦勝国クラブ』とみる考え方が支配的だ。日本がどれほど国連の分担金を支払っていようが、なんら称賛、評価されるべきものではない」と中嶋氏も述べている。正しくその通りで、世界の常識として国連は第二次世界大戦時の「連合国」そのものなのである。したがって日本が常任理事国入りすることに中国が反対することは十分に予測できた。二○%もの分担金を支払わされている日本が分担金に相応しい権利を求めるのは当然のことだが、敗戦国が拒否権を持つ常任理事国となることに中国が賛成するはずがない。したがって拒否権を持たない形での常任理事国入りとなって、さらに分担金の上増を迫られることとなる。核も持たず独立自衛できない敗戦国日本はまず旧敵国条項の撤廃を求めるべきである。中国での反日愛国教育は江沢民時代からであり、その結果が今回の反日デモ騒動だ。そのような手段で中国政府が民衆を煽り、日本の国連安保理常任理事国入り反対という自国の要求を民衆からという形で出し、日本の大使館への被害の賠償も謝罪も一切しないで日本に圧力をかけてきている。冒頭の温家宝首相の発言は、これをまさに裏付けるものだ。
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 数々の問題が噴出することで中国社会は非常に不安定に
 一方、中国では反日デモとは異なる暴動も多発している。同じく四月十三日の産経新聞には、農民暴動の記事が出ている。「中国各地で反日行動が勃発するなか、上海の南に位置する浙江省東陽の村で十日、化学工場の公害問題をめぐり農民ら三万-四万人が暴徒化し治安当局と激しく激突、多数の負傷者が出たようだ」。「香港各紙などによると、衝突で約五十台の当局車両が破壊され、双方で約百三十人が重軽傷を負ったとの情報もある。女性二人が死亡したともされる」というこのデモは同時期の反日デモとは装いを異にするものである。同じ記事には「中国では東陽のような抗議行動(陳情除く)は農民関係だけで昨年二百件前後も発生して」いて、「昨年十月には五万人以上が政府庁舎を囲んだ騒乱事件が重慶で起き、広東省でも十二月に出稼ぎ労働者五万人が当局と衝突したケースなどがあった」など、「共産党・政府への不信はいつでも爆発しかねない」状況なのである。最初は今回の反日デモのように、中国政府の意志伝達のために、または民衆のガス抜きのためにコントロールされていたデモであっても、多くの農民や学生・労働者が集まることによって、一気に「体制からくる構造矛盾」という火薬庫に引火する危険が大きいのではないかと私は考えている。
  爆発的に成長する中国経済は世界の工場としてディスインフレに貢献しているのだが、これは農民戸籍に縛り付けられている人々による超低賃金労働力に依拠したものであり、彼らをいつまでも豊かにしないことで共産党幹部二世の太子党など一部の特権階級がいつまでも繁栄を謳歌できるわけで、貧富の格差はますます拡大する一方である。また急速な工業化に伴い、多くの社会問題が急激に噴出している。前出の産経新聞の記事によると、浙江省の農民暴動の原因は、「地元政府が農地を収用し四年前に建設した十三の化学工場の大気汚染。悪臭が漂い農作物が枯れたほか奇形児も生まれたことで農民らの怒りが爆発、十日、工場近くの道路を封鎖したことを機に衝突した」という。また「四川省では昨年十月、ダム建設で農地を失う農民数万人が補償額を不満としてデモ。陝西省でも農地収用に伴う衝突で数十人の農民が死傷するなど騒乱事件が相次いでいる。開発名目の収用で土地を失った農民はこれまでに四千万人に達したともみられている」し、「土地収用にあたっての補償金が安いだけではない。開発業者からのリベート、補償金の流用など官僚汚職も農民騒乱の背景にあり、日本が時間をかけて徐々に解決してきた諸問題が、あまりにもスピードの早い発展によって一気に表面化しているように思われる」。これらの問題を背景とした中国の構造的矛盾が徐々に高まってきている。中国に進出している日本企業は、こういったこの国のカントリーリスクを明確に把握しているのだろうか。
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 中国への譲歩の主張は属国化を選択するに等しい 
 中国という国は一つの壮大な実験である。十三億人という膨大な人口、しかも言語も民族も宗教も異なる人々が共産党独裁政権のもとで一つの国を形作っているのは奇跡ともいえる。共産主義イデオロギーが色あせた今、中国政府はイデオロギーに替えて民族主義に基づく反日愛国を掲げてこの国をまとめようとしている。しかしこれにも強権と強制が必要であり、 小平は「先に豊かになれる人から豊かになれ」と言ったがそれは党幹部が先に豊かになれということであるが、「人は貧しさを共有することができても豊かさは共有できない」という。そういう意味からも中国は貧富の格差の拡大により矛盾点が限界に達し崩壊・分裂する日が近いと思う。同じく共産主義イデオロギーで多くの民族を支配していたソ連は崩壊し、十数カ国に分裂した。強権をもって結束を固め、国内の矛盾のはけ口を国外に求めて、常に外に敵を作って結束を保っていたソ連も結局分裂した。この過去の例を見ていると、同じように強権を用い、江沢民が行った反日愛国教育によって日本批判の繰り返しで求心力を高めて保っている中国の独裁体制の将来に待っているのは、ソ連と同じ結末である。経済成長に比例して増大してきた現代中国社会の貧富の格差が情報伝達手段(テレビ・ビデオ・インターネット)の普及によって、ますます民衆の巨大な欲求不満を生み出している。共産党政権が今回の反日デモを自らの政権維持にとって好都合だと思って容認していると、思わぬ落とし穴に墜ちていくのではないだろうか。
  前出の中嶋氏が反日デモに関して「一部の日本の財界人は、みごとに中国側の批判に応じて、中国への譲歩を主張している」と述べている。四月十二日付けの朝日新聞朝刊の社説などは、まさに中国の術中にはまった典型だ。「小泉首相の責任は重い」と題して、反日デモの「根底にあるのが小泉首相の靖国神社参拝だ」と断じ、「戦争に敗れたはずの日本が経済大国として発展し、国際社会の中で大きな存在感を持っていることに近隣国の人々は複雑な思いを抱いている。だからこそ、謙虚な姿勢を見せることが、日本がこの地域で認められるために必要な外交のリアリズムである」。「実際、それが戦後日本の『アジア重視』外交の底流となってきた。だが今の日本社会では、『毅然』や『愛国』ばかりを求める威勢のいい言動が好まれがちだ。政治家にも同じ傾向がある」。「しかし、首相には大きな国益を考えてもらいたい。靖国神社に参拝し続けることに、どのような国益がかかっているのか。譲るものを持たずに、どうして相手にだけ誠意ある対応を求めることができようか」と結論づけている。まったくバカバカしく、反論するにもあたらないような主張を例によって繰り返している。もっと謝れ、もっと譲れとばかり主張する朝日新聞はいったいどこの国の新聞なのだろうか。中嶋氏曰く「日本がこのまま中国の属国になるという選択をするのなら別だが、今回の事件は、今後の日本国家としてのあり方を問うもの」なのである。朝日新聞の姿勢は、日本が中国の属国になるという選択を促進しているとしか思えないものだ。
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 中国共産党こそ自らの過去の行為を反省せよ
 中国は絶えず「日本は歴史を尊重して責任を取れ」と主張する。しかし歴史を尊重して責任を取るべきなのは、中国共産党政権自身なのではないだろうか。中国共産党が政権を取ることができた歴史的背景としては、先の大戦の結果である。私は当時の日本政府を必ずしも評価しているわけではないが、中国共産党は日中戦争の結果で政権が取れたことに皮肉ではないが、感謝すべきだと思う。今の中国(中華人民共和国)の建国から今日までの歴史を検証してみると、それは自国民虐殺の歴史とも言える。毛沢東による大躍進政策の大失政のために何千万人という餓死者を出し、文化大革命という自らの権力奪還維持闘争で自国民に対するホロコーストと言っても良い運動で数千万人の犠牲者を出したり。この文革の影響がカンボジアにまで飛び火して、中国傀儡のポル・ポト政権によって国民の三分の一にも及ぶ数百万人の人々を虐殺した。周辺地域に対しても横暴ぶりは同じだ。分離独立を願うチベットに同化政策を掲げて宗教弾圧をしたり、インドが核戦力を保有するまでは絶えず中印国境でインドを挑発したり、一方的な論理によって「ベトナムを懲らしめる」と侵攻して大敗北した中越戦争など侵略行為は、枚挙に暇がない。これらはすべて中国共産党独裁政権維持のためで、かの有名なナポレオンの言葉ではないが「余の政体は若い、故に戦う」という言葉に要約されるが、周辺国にとっては迷惑千万である。日本の過去の行為に謝罪を求めるより、中国共産党独裁政権こそ自国民や周辺国に謝罪をすべきである。アヘン戦争によって香港を奪ったイギリスも、その後の西洋列強によって実質的分割支配されたことにも謝罪を求めずに日本だけを標的に非難するのは、反撃能力も意志もなくひたすらに慄く国は安心して脅かせると思っているからである。日本がインドのように中国の核戦力とバランスのとれる戦力を保持するまで中国の難癖は続く。
  私は様々な構造的矛盾を抱えて肥大し続ける中国は、いずれ分裂すると考えている。今のままでは矛盾の拡大が限界点とも言える、二○○八年の北京オリンピックか、二○一○年の上海での万国博覧会の前後に頂点に達し、中国崩壊が始まるのは間違いないと思う。今中国で行われている「官製」反日デモは、中国共産党にとって両刃の剣となり、共産党独裁政権崩壊につながる導火線に火がつく可能性がある。一九八九年六月の天安門事件の民主化要求デモに対して中国政府は人民解放軍を用いて、デモを蹴散らす強硬手段による解決を行った。しかし反日デモを容認していると、かつての天安門事件のような暴動となって今度は強権も発動できないくらいのうねりとなり体制崩壊分裂内乱となるのではと思う。中国は今、極めて危険な賭けに出ていると言える。
  東西冷戦の終結によって起こった世界規模の地殻変動に伴う国家間の流動化によって、東アジア地域は世界で最も激しい動きのあるエリアとなってきている。このような情勢の中で、今日本が必要としているのは、「力の均衡こそが平和を保つ」というバランス・オブ・パワーの重要性を認識することだ。そのためにも国力に相応しい軍事力の保有と必要に応じて瞬時にその軍事力を行使できる法律を諸外国並に整備(日本の自衛隊は「準拠法」によって動かなければいけないが諸外国の軍隊は有事に於いて軍事力は「禁止法」によってのみ縛られ、それ以外は必要に応じて何でもできる。)し、一日も早く独立して自衛のできる国家へと変貌を遂げるべきである。ますます構造的矛盾が増大してくる中国。中国共産党独裁政権は、矛盾を覆い隠し自国民の結束を図るために、さらに日本を矛先とした非難を強めてくることは想像に難くない。日本はこのとばっちりを防ぎ、中国の分裂・内乱に巻き込まれないように体制を固め、これらにそなえ、メディアも自虐的な中国迎合路線から脱し、真の国民世論を育て健全な民主主義をサポートする第四の権力としての機能を果たすべきである。
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